1. はじめに生成AIを使っていて、思うような回答結果にならなかったり、ハルシネーションが起きてしまった経験はありませんか?必要な条件が不足した抽象的なプロンプトでは、観点や判断基準、出力形式が生成AI側の判断に委ねられるため、意図した回答を得られない場合があります。また、不足している情報を推測によって補い、事実ではない内容をあたかも正しい情報であるかのように出力することがあります。この記事では、生成AIで業務を効率化するためのプロンプトの設計方法について解説します。2. 生成AIで効率化する業務今回は、Excelで管理されている営業日報の分析業務を、生成AIで効率化するケースを取り上げます。営業担当者は毎週、営業状況を確認し、対応が遅れている案件の把握や次週の営業アクションの検討を行っています。しかし、営業日報を一件ずつ確認する必要があり、作業に時間がかかっています。使用する営業日報データには以下の情報が含まれています。| 営業担当者名 | 訪問日 | 顧客名 | 商談ステータス | 提案商材 | 商談金額 | 次回アクション | 失注理由 | 受注予定日 | コメント |生成AIには、営業日報をもとに次の内容を作成させます。営業状況の要約受注見込み案件の抽出対応遅れや失注リスクの抽出次週に優先対応する案件の提案営業改善アクションの作成3. プロンプトによる出力結果の違いを比較する3.1 抽象的なプロンプトで分析を依頼するまずは、抽象的なプロンプトを使用して分析を行ってみましょう。今回はChatGPT-5.6 Sol を使用します。抽象的なプロンプト添付した営業日報を分析して、営業改善レポートを作成してください。テスト用に用意した営業日報Excelファイルを添付して分析を依頼します。現状のプロンプトの課題は以下の5点です。どのような立場で分析するのか指定されていないどの項目を確認するのか指定されていない優先案件の判断基準がない処理手順が指定されていない出力形式が指定されていない3.2 推論結果の確認推論結果は以下のようになりました。推論完了までに約15分程度かかり、PDF・Word・Excel形式の3つの資料が出力されました。PDFファイル形式のレポートの一部Excelファイルのダッシュボードの一部今回は、抽象的な指示であっても営業日報が分析され、PDF・Word・Excel形式の資料が生成されました。しかし、プロンプトの内容が抽象的なので、実行するたびに、分析観点、集計内容、判断基準、出力形式が変わる可能性があります。そのため、先ほど課題として挙げていた5点を意識し、より具体的なプロンプトを作成して再度分析を依頼します。3.3 具体的なプロンプトで分析を依頼する次に、具体的なプロンプトを使用して分析を行ってみましょう。今回はチャット内で内容を把握したいというケースを想定し、出力結果にはファイルを含めないようにします。具体的なプロンプトあなたは営業企画担当者です。あなたは、与えられた営業日報データをもとに、週次の営業改善レポートを作成する必要があります。以下に、インプットデータの内容、分析時の観点、出力時の制約を記載します。━━━━━━━━━━━━━━━━━━営業日報データ(Excelファイル)の内容━━━━━━━━━━━━━━━━━━営業日報データには、主に以下の項目が含まれます。・営業担当者名・訪問日・顧客名・商談ステータス・提案商材・商談金額・次回アクション・失注理由・受注予定日・コメント━━━━━━━━━━━━━━━━━━分析時に確認する観点━━━━━━━━━━━━━━━━━━以下の観点で営業状況を整理してください。1. 商談数2. 受注見込み金額3. 商談ステータス別の件数4. 受注確度が高い商談5. 対応が遅れている可能性がある商談6. 失注理由の傾向7. 次週に優先対応すべき顧客━━━━━━━━━━━━━━━━━━制約条件━━━━━━━━━━━━━━━━━━以下の制約は厳守してください。1. 分析対象期間は、訪問日が2026年7月6日から2026年7月12日までのデータにしてください。2. 次のいずれかに該当する案件を、受注確度が高い商談として扱ってください。 ・商談ステータスが「稟議中」である ・商談ステータスが「見積提示」であり、コメントに予算確保済みまたは契約予定の記載がある ・商談ステータスが「受注」である案件は、受注見込み案件には含めない3. 受注見込み金額は、商談ステータスが「見積提示」または「稟議中」の案件の商談金額のみを合計してください。4. コメント欄に「返信がない」「返信待ち」「連絡がない」などの記載がある案件を、返信停滞案件として扱ってください。5. 次のいずれかに該当する案件を、対応が遅れている可能性がある商談として扱ってください。 ・次回アクションが空欄である ・受注予定日が基準日以前であり、商談ステータスが受注または失注になっていない ・コメント欄に返信停滞を示す記載がある━━━━━━━━━━━━━━━━━━優先順位の考え方━━━━━━━━━━━━━━━━━━対応優先度は、以下の順序で判断してください。1. 受注予定日が近く、商談金額が大きい案件2. 顧客からの返信待ち期間が長い案件3. 失注リスクがコメント欄に記載されている案件4. 次回アクションが未設定の案件5. 商談金額は小さいが、受注確度が高い案件━━━━━━━━━━━━━━━━━━分析から出力までの手順━━━━━━━━━━━━━━━━━━以下の順序で処理してください。1. 営業日報データの項目を確認する。2. 商談ステータス別に件数と金額を集計する。3. 受注見込みが高い商談を抽出する。4. 対応遅れや失注リスクがある商談を抽出する。5. 次週に優先対応すべき顧客を選定する。6. 最後に、営業改善レポートとして出力する。なお、詳細な内部推論は出力せず、判断基準・集計結果・改善提案のみを簡潔に出力してください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━出力形式━━━━━━━━━━━━━━━━━━今回はチャット内で内容を把握したいので、以下の情報はファイル出力せず、チャット内の回答として出力してください。以下の順序で出力してください。1. 分析対象期間内の営業状況サマリ2. 商談ステータス別の集計表3. 受注見込みが高い商談一覧4. 対応遅れ・失注リスクがある商談一覧5. 次週に優先対応すべき顧客6. 営業改善アクション7. 判断に使用した主な根拠3.4 推論結果の確認推論結果は以下のようになりました。具体的なプロンプトを使用した場合、約3分でチャット内にレポートが出力されました(ファイル生成がなくなった分、生成処理が早くなったと思われますが、出力量、実行環境などにも左右されるため、プロンプトを具体化したことだけが短縮の要因とは限りません)。集計表受注見込みの高い商談一覧3.5 2つのプロンプトでの出力結果から分かること抽象的なプロンプトを使用すると、出力結果が実行毎に変わる可能性があります。今回の検証で抽象的なプロンプトを使用したケースでは、チャット内での回答はほぼなく、PDF・Word・Excelの3つのファイルが出力される形でした。ただ、同じプロンプトで再度実行した際に、同様の出力結果が得られるとは限りません。出力内容・ファイル数が変わったり、そもそもファイル形式の出力ではなくなる可能性もあります。また、今回はGPT-5.6 Solを使用したため、抽象的なプロンプトでもある程度完成度の高い資料を一回の実行で生成することができましたが、使用する生成AIが変わった場合、同じ挙動になるとは限りません。モデルや実行環境による出力差を小さくするためにも、目的、判断基準、制約条件、出力形式を具体的に指定することが重要です。4. 良いプロンプトを作るための構成要素4.1 業務の前提情報を与える生成AIは、どのような立場で何を行うのか、入力データにどのような情報が含まれているのかを自動的に把握できるとは限りません。そのため、生成AIに与える役割、実行するタスク、判断に必要な背景情報を指定します。今回の例では、営業企画担当者として週次レポートを作成することと、営業日報に含まれる項目を記載しています。4.2 制約条件を指定する業務上のルールや、用語の定義を制約条件として指定することで、生成AIによる独自の解釈を抑えられます。今回の例では、分析対象期間、受注確度が高い商談の条件、対応遅れと判断する条件等を指定しています。曖昧な表現を避け、誰が見ても同じ判断ができる条件にすることが重要です。4.3 判断基準と優先順位を指定する「重要な案件を選ぶ」のような指示だけでは、何を重要とするかが生成AIの判断に委ねられます。そこで、受注予定日、商談金額、返信の停滞等、業務上重視する判断基準を具体的に示します。複数の条件が該当する場合に備えて優先順位も指定することで、案件の選定基準を統一し、出力結果のばらつきを抑えられます。4.4 推論(処理)順序を指定する複数の集計や判断を含む業務では、最終的な成果物だけでなく、処理する順序も指定します。今回の例では、データ項目の確認 → ステータス別集計 → 受注見込み案件の抽出 → リスク案件の抽出 → 優先顧客の選定という順序を定義しています。処理を段階的に分けることで、一定の流れで回答を作成させやすくなります。4.5 出力形式を指定する分析内容が正しくても、利用目的に合わない形式で出力されると、確認や再利用に手間がかかります。そのため、チャット、ファイル(Excel、PDF)などの出力媒体に加えて、項目の順序や表に含める情報まで指定します。今回の例では、ファイルを作成せずチャット内に出力することと、サマリ、集計表、案件一覧等を含めることを指定しています。5. まとめこの記事では、抽象的なプロンプトと具体的なプロンプトを使用した場合の出力結果を比較し、生成AIから意図に沿った回答を得るためのプロンプト設計方法を紹介しました。近年は生成AIの能力が向上しており、抽象的な指示であっても、複雑な分析や実務で利用できそうな資料の作成が可能になっています。しかし、分析の観点や判断基準、出力形式を指定していない場合、それらの判断は生成AI側に委ねられます。その結果、一見完成度が高く見えても、内容を詳しく確認すると、業務上の認識や期待と異なる場合があります。出力結果のばらつきを抑え、業務上の意図を反映した回答を得るためには、生成AIに与える役割やタスク、前提条件、制約条件、判断基準、処理手順、出力形式を具体的に指定することが重要です。